デフレは、賃金を下げ過ぎた経営者の責任だ
内容は、プロダクトイノベーションで経済を引っ張っていくという話。タイトルは日経BP記者の釣りに近い。
長引くデフレの原因を「イノベーションの欠如にある」とした吉川洋・東京大学大学院経済学研究科教授。そのイノベーションの欠如をもたらした元凶は、企業 による正規雇用から非正規雇用への流れなどによる名目賃金の下落であると論じ、デフレの原因を「日銀の金融緩和が不十分だからだ」とする説に真っ向から反論した。
非正規と呼ばれる人たちが、どれほど人的資本を蓄積できるのでしょうか。
上場企業は手元に資金が潤沢にあるわけで、使っていないだけです。お金がないからイノベーションができないんではなくて、先ほどの人的資本の枯渇の問題もあって知恵がないからのではないでしょうか。
タイトルが釣りだったとしても、私は広野 彩子日経BP記者は正しいと考えている。
そう、賃金下落こそデフレの原因である。(ていうか、プロダクト・イノベーションとデフレは関係ないだろ。世界の殆どの国はプロダクト・イノベーションと無関係だが、デフレになっていない。)
簡単なモデルを示そう。
1億人の労働人口がいる国を考える。収入別に上位5%、中位65%、下位30%に分け、それぞれ消費性向を仮定し、個人消費総額を求める。
上位5% | 中位65% | 下位30% | 計 | |
---|---|---|---|---|
労働人口(千人) | 5,000 | 65,000 | 30,000 | 100,000 |
平均所得(千円) | 20,000 | 5,000 | 3,000 | - |
階層別所得(兆円) | 100 | 325 | 90 | 515 |
階層別消費性向 | 50% | 70% | 90% | - |
階層別消費額(兆円) | 50 | 228 | 81 | 359 |
次に、中位・下位95%の平均賃金を下げ、上位5%にシフトさせる。年収に応じて消費性向を調整する(年収が下がると貯蓄が小さくなる)。
上位5% | 中位65% | 下位30% | 計 | |
---|---|---|---|---|
労働人口(千人) | 5,000 | 65,000 | 30,000 | 100,000 |
平均所得(千円) | 39,000 | 4,000 | 2,000 | - |
階層別所得(兆円) | 195 | 260 | 60 | 515 |
階層別消費性向 | 40% | 80% | 95% | - |
階層別消費額(兆円) | 78 | 208 | 57 | 343 |
個人消費総額は359兆円→343兆円と△4.5%下落する。さらに上位5%の富裕層が海外ブランドを主体に消費するとすると、中位・下位向け国内産消費は△17.2%のマイナスになる。
労働人口がほぼ一定の条件で、格差社会をつくるとデフレになるのである。
吉川教授は「イノベーションの欠如をもたらした元凶は、企業による正規雇用から非正規雇用への流れなどによる名目賃金の下落である」としているが、まず、非正規雇用はイノベーションと関係のない分野で進んでいる。そして、製造業においては名目賃金の下落はなかったとされている。
独立行政法人 経済産業研究所
サービス産業における賃金低下の要因~誰の賃金が下がったのか~
製造業の賃金は、バブル崩壊後の時期に当たる1993-1998年の期間には上昇、1998-2003年というアジア通貨危機からITバブル崩壊の時期にかけての期間、2003-2008年の日本経済が比較的堅調であった時期については大きな変化が観察されなかった。一方、サービス産業は、1993年以降一貫して賃金は下がり、1993-1998年は-3.0%低下、1998-2003年は-7.8%低下、2005-2009年は-7.9%の低下とその下落率も拡大した。1993-1998年の期間における賃金下落の最大の要因はサービス産業におけるパート労働者の増加である。1998-2003年の期間は、ほぼ全ての業種で、全ての属性の労働者の賃金水準が下落した。2003-2008年の期間は、製造業の賃金は下がらない中で、サービス産業では大きく下落している。この時期のサービス産業の賃金下落には、労働時間の減少が最も大きく影響し、次いで、パート労働者の増加が影響した。
「誰の賃金が下がったのか?」という疑問に対して一言で回答すると、国際的な価格競争に巻き込まれている製造業よりむしろ、サービス産業の賃金が下がった。また、サービス産業の中でも賃金が大きく下がっているのは、小売業、飲食サービス業、運輸業という国際競争にさらされていない産業であり、サービス産業の中でも、金融保険業、卸売業、情報通信業といたサービスの提供範囲が地理的制約を受けにくいサービス産業では賃金の下落幅が小さい。
そう、問題はサービス業なのだ。ここ20年間の労働人口の推移を見ると、建設・製造業の占める割合は40%(1992)→30%(2002)→25%(2012)と大きく低下し、浮いた労働者を介護サービスが引き受けている状況だ。
このサービス業の賃金が下がっているのは、単に価格競争の結果であり、経営者の問題である。サービスの価格を決めるのは経営者の仕事だからだ。ところが、どこかの経済評論家は労働者が働かないから労働生産性が低くなってデフレが起きているとか言ってるが、働いていないのはお前の頭だ。
では、サービス業の賃金を上げるにはどうするか。
最低賃金を上げれば良い。
その原資は、
- 価格に転嫁する
- 経営陣の給与削減
- 不動産賃料の値下げ
に求めれば良い。経営者は自分の給与を減らされたくないなら、サービス・イノベーションを起こせ。喫茶店ならバイトのコスチュームをエロくしろ。価格競争は下策だということを思い返せ。それができない企業は市場から退場してしまえばよい。オーバーストア状態が解消され、ビジネス環境はよりマシになる。
もう一つは、女性一般事務職の正社員化である。多くの企業で派遣に切り替えていると思うが、そもそも派遣は通訳みたいな専門職をピンポイントで雇うための制度なんだから、一般事務職を派遣に切り替えるのは趣旨が違う。単なる人件費削減。若い女性の収入が増えれば、景気は回復します。私は若い女性の味方です(セクハラ)。